作品について
『キョンシーに優しく』は、キョンシーをめぐる架空の近代史と、漫画、あとがき的な文章を収録した本です。
前半はセリフのないサイレント漫画です。二人の女の子が突然キョンシーとなって目覚め、「御札は大事なものだから絶対に外してはいけない」とだけ言われて二人、 あてもなく町中を彷徨います。その過程で人々の優しさに触れつつ少しずつ物語が進んでいきます。

しかし漫画の終わりはやや唐突で解釈の幅が大きいです。「もう忙しく働かなくてよくなったのかも」「二人で幸せにずっと暮らしていくのかも」そんな感想をいただく ことが多かったように思います。ただし、彼女らがなにをしていたのか、というのが後半の小説によって少しずつ明らかになっていきます。
小説部分では架空の映画や事件を数多く扱い、あたかもキョンシーという存在が世界的に存在していたという体で百科事典風の記事を順に読んでいく、という スタイルで物語が展開していきます。
キョンシーとは呪術によって行動可能な状態におかれた人間の遺体のことである。
キョンシーは、基本的には自身に呪術を施した道士に従い言うことをよくきくが、時間経過に伴い自律的な行動が多くなる。道士の監督下を離れたキョンシーは三界に家なく彷徨う。
キョンシーは菓子類を好み、よく食べる。菓子を与え続ける限り、行動を持続することが可能である。高価な菓子ほど効果が持続するが、一方で、菓子や食事の供給が途絶えると、途端に不平不満を表す。
もともと、キョンシーは中国江西省出身で上海市周辺の沿岸都市部で働く出稼ぎ労働者の遺体を故郷まで搬送する手段であった。上海市周辺の沿岸都市部で働く出稼ぎ労働者が亡くなった際、清朝末期の1900年前後には中国の大部分で交通網が未整備であったため、山間部を通る隘路を使い、人間の遺体のような重量物を人力で運ぶことは、費用面から見ても現実的ではなかった。たとえ費用をかけて運送したとしても、日数がかかり、途中で遺体が腐敗してしまうことが多く、この点でも現実的ではなかった。

御札と花畑(みふだとはなばた) は、2016年の日本映画。山田俊吾監督作品。主演は三隅翔。脚本は成瀬友美で、原作は古淵裕太の同名ノンフィクション小説。
ニューホライズン・フィルム・アワード奨励賞、第三四回アジアアカデミー賞脚本部門優秀賞、第六回町畑双水賞、さらに2016年度芸術文化庁メディア芸術賞映画部門新人賞を受賞している。
物語は、2010年に発生した東尖山地方大震災で被災した男女が、その後の数年間で経験した感情の変化を描いている。
あらすじ
2010年当時、恋人であって婚約していた河合洋と皆川鈴であったが、同棲を始めたことに伴う環境の変化や結婚式をめぐる親族の対立などもあって鈴はマリッジブルーに陥り不安定な精神状態にあった。洋は結婚式の段取りについて鈴と数日間喧嘩をしており、その日も険悪なままに出勤をした。二人はその途上で震災に巻き込まれる。鈴が乗っていた通勤電車が走る高架線は倒壊して車両に乗っていた乗客の半数以上が死亡する事故となり、大きく倒壊した高架線は当時報道ヘリによって尖山地方の被災状況を物語る映像として何度も放映された。
洋は出勤中に鈴が乗っている路線の映像を目にし、即座に職場を飛び出して現場に向かおうとした。しかし、道路は自動車で溢れ交通機関は麻痺していた。三日後、ようやく鈴の遺体と対面した洋は打ちひしがれ、以前職場で耳にしたキョンシーの話を思い出し、鈴をキョンシーとして蘇らせようと考えた。
キョンシーが登場することからも分かるとおり、すべて架空の設定と出来事であるのですが、読んでくださった方からは 「どこまでが本当かわからなかった」「本当にあった映画・事件かと思い、逐次インターネットで検索してしまった」という話を頂きました。 これは私にとっては最高の賛辞であると捉えています。
本当にあったドキュメンタリー風の小説ということで、モキュメンタリーにも似た要素があるのかもしれません。

戦間期に入ると大日本帝国関東軍直属組織であった第一〇三独立補給隊において、秘密裏にキョンシーを即席の歩兵として活用することを目指して研究が進められた。本部隊の創設には、石森寅松(少佐に昇進)が大きく関与していた。石森は満州のキョンシー道士を多数招聘してキョンシー研究を行ったが、その結果は芳しくなかったと関係者の証言で明らかになっている。背景には、キョンシーの知能が乏しく指揮命令を守れないこと、主に規律の面で問題があること、小銃の発砲音を怖がるため小銃を扱えるキョンシーが極少だったこと、菓子や缶詰類を勝手に漁って無断で食すことが多かったことなどがあり、「兵士として適さず」と評価されたと推測される。
一方で、物品の輸送などの単純作業には一定の成果が見られたため、研究の方針は、山岳や丘陵地帯など自動車輸送が困難な地域での兵站強化や、戦死した自国兵士の遺体収容を簡便に行う手段としての応用にシフトしていった。
第二次世界大戦が勃発すると、第一〇三独立補給隊内で組織されたキョンシー部隊(通称キ部隊)は後方の兵站任務において一定の成果を上げ、関東軍中央からもキョンシー部隊の拡充が要望された(この電送司令文は立川陸軍駐屯地から送信され、現在も破棄を免れて立川戦史資料館に展示されており、「キ部隊」の表記が確認できる)。
制作メモ
この本はもともと計画的に制作を進めていたわけではなく、小さな発想から電撃的に完成させた本でした。
ある日「キョンシーのデザインって可愛いかも知れない」と気づいてキョンシーのイラストばかりを描いていたのですが、キョンシーのWikipediaの記事を見かけたときに 「出稼ぎ人の遺体を道士が故郷へ搬送する手段として、呪術で歩かせたのが始まり」という記述を見つけ、 出稼ぎで苦労して死んでしまってもなお自分で歩かされるのか…とキョンシーという存在がとても不憫な存在に思えたのがきっかけです。
どうか可愛いキョンシーが幸せになってほしい(キョンシーが可愛いという世間での一般的な取り扱われ方は必ずしもないのですが)、という思いを込めて 3ヶ月ほどで制作をおこないました。
その過程で困難だったのが「キョンシー」という存在そのものに関する日本語情報の不足でした。キョンシーについて調べてみてもゲームのキャラクターか、 「霊幻道士」という昔の映画か、あとはコスプレの衣装としてのキョンシーしか出てこないのです。ですから、ほとんどの設定をゼロからひねり出して作りました。