作品について
―――僕たちは、少しずつ遺伝子を載せた隕石を落としていた。種を蒔いていたんだ。その収穫のときがきた。さっちゃん、一緒に世界の終わりを眺めよう
『ライク・ア・ムービー』は、2000年代前半の田舎を舞台にした青春SF小説です。
主人公は田舎の高校に通う男子高校生、彩月。みんながCDやMDで音楽を聞き、ケータイの電話帳登録件数を競い、i-modeでメル友を探していた時代。 主人公は友達関係や恋愛で一喜一憂しながらも、数年後にやってくる卒業後の進路と閉ざされて行き場のない人生の岐路について思い悩みます。

恋も、勉強も、進路も、すべてが上手くいかない。夏の高校野球で初戦敗退が確定的な野球部の応援に駆り出され、 主人公はまるで自分の人生のようだとうなだれます。
そんなときに唐突に現れた転校生、天野。彩月と、彩月と同じクラスの女子、神室を呼び出してこう告げます。
「君たち二人は選ばれし子供だ。あと一年もしたら、地球上の人類は滅ぶ。人間が居なくなったあと、数日で電気が止まり、半年もすれば草木が町を埋め尽くす。 さらに一年後には人工衛星が流れ星になるだろう。人間は地球上から居なくなる。でも、君たちのような選ばれた御子だけは違う。君たちだけは、死なない。僕が連れて行く」
二人は天野の言うことを初めは信じません。おかしな転校生がおかしなことを言っている。高校生にはそんなことよりも大事なことが山ほどある。 そう考えていたはずでした。しかし、それでも無視できない小さな事件が少しずつ起こりはじめ、日常にほころびが生じていきます。

天野の言っていたことは本当で、一年後本当に世界は唐突に終わり、崩壊した世界を彩月、天野、神室の三人は彷徨います。

「私ね、昔から背が高かったでしょ。だからね、友達が喋ってることがよく聞こえなかったんだ。頭の高さが違いすぎるから。だから、適当に相槌打ってたことも何度もあったし。本当はね、正直に言えば、『下界の下々が喋ってる』と思ってることもあった。だって、何言ってるか分からないから適当に相槌打ってるだけだったのに、それがクールだって言われるんだもの。ちょっと良い気になってたな」
神室は、すこし鼻をすすって、また話し始める。静かな空間で神室が呼吸する音が支配する。
「……車に乗ってる時、私は東京で暮らしたかったって言ってたでしょ。それも同じ。秋田で生まれて何も考えずに秋田で就職しようとする人たちを視野が狭い人って軽蔑してたりもした」
神室の目は少し潤んでいるように思えた。その目に小さな明かりが。
制作メモ
初めて描いた長編小説です。
リアルでそこに生きていると信じることができるキャラクターとストーリー、そして2000年代の懐かしさの2つを表現することを重視しています。
「世界が終わりました」という設定ありきのSFではなく日常の延長として現実感があり、その世界に接地したキャラクターが生きていて、 もしかしたら本当にこのような世界もあったかも知れない、と読者が信じることができるようなものを目指しました。
そのため、自らの実体験を織り込んだキャラクターやストーリーを構築し、意図的に固有名詞や地名を多く登場させました。
世界が崩壊するという非現実的な内容でありながら、読んだ方からは「崩壊する世界の描写が本当に怖かった」「何度も泣いた」と共感性の高い感想を 頂けたので狙い通りの表現は出来たかなと考えています。